ここ数年、世界は脱炭素社会の実現に向けて大きく舵を切ってきました。電気自動車(EV)の普及や再生可能エネルギーの拡大は、持続可能な未来への一歩として期待されてきました。しかし、2024年の米大統領選でトランプ氏が勝利したことで、この流れが大きく変わる可能性が出てきました。トランプ政権は再生可能エネルギー政策の縮小を掲げ、「脱・脱炭素」の路線を打ち出しています。これは単に米国の問題にとどまらず、世界全体のエネルギー政策や資源市場に大きな影響を及ぼすかもしれません。
今回は、トランプ氏の政策がもたらす影響を整理し、私たちがこれからどのような情報をキャッチし、どのように行動すべきかを考えていきます。
1. トランプ政権の「脱・脱炭素」路線とは?
トランプ政権は、風力発電の新設を禁止し、政府所有地のリース廃止などを通じて再生可能エネルギーの拡大を制限する方針を示しています。彼は「風力発電は最も高価なエネルギーだ」と発言し、政府の支援を打ち切る姿勢を明確にしています。
その影響はすでに市場に現れており、トランプ氏の勝利後、再エネ関連企業の株価は大幅に下落しました。例えば、デンマークの風力発電大手オーステッドは35%安、風力発電機メーカーのベスタスも18%下落するなど、投資家の不安が広がっています。
2. EVシフトの減速:補助金廃止の影響
バイデン政権は、インフレ抑制法(IRA)を通じて、北米で生産されたEV購入者に最大7500ドルの税額控除を提供し、EV市場の拡大を支えてきました。しかし、トランプ政権はこの補助金を廃止する可能性があり、EVの普及が鈍化する懸念が高まっています。
EV市場の成長が止まれば、関連するバッテリーや充電インフラ産業にも影響が及ぶため、今後の政策動向を注視する必要があります。
3. 鉱物資源市場への影響:銅・レアメタルの需要減速
EVや再生可能エネルギー向けの需要が高まるとされていた銅やレアメタル市場も、政策の変化によって不安定な状況にあります。
国際エネルギー機関(IEA)の試算では、2040年の銅需要は2023年比で51%増加するとされていました。しかし、米国が脱炭素政策を後退させれば、こうした見通しが下方修正される可能性が高まります。
さらに、トランプ氏は鉄鋼やアルミニウム、銅に関税を課す方針を示しており、これが貿易戦争につながることで、資源市場全体が混乱するリスクも指摘されています。
4. 世界的な脱炭素の潮流は変わるのか?
米国だけでなく、ドイツでも極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が環境政策への反発を強めています。これは、世界的に脱炭素政策が見直される可能性があることを示唆しています。
住友商事グローバルリサーチの本間隆行チーフエコノミストも「米国での脱炭素政策の後退が、世界全体の流れを変える可能性がある」と指摘しており、各国がどのような対応を取るのかが注目されています。
5. これから私たちは何をすべきか?
短期的には、トランプ政権の政策が再エネ市場や脱炭素資源市場に混乱をもたらすことは避けられません。しかし、長期的には世界的な脱炭素の流れが完全に止まることは考えにくいでしょう。
情報をキャッチするポイント
- 米国以外の脱炭素政策の動向を注視
- EUや中国、日本など、他の主要国がどのように脱炭素政策を維持・発展させるかをチェック。
- 国内企業の対応策に注目
- トヨタやパナソニックなど、日本の企業はどのようにEVや再エネ事業を進めるのか。
- エネルギー・資源市場の変動を把握
- 銅やレアメタルの価格動向、株式市場の変化をチェックし、投資や消費の判断材料とする。
私たちの行動指針
- EVや再エネの普及を支えるために、個人レベルでも省エネや環境負荷の少ない製品を選ぶ意識を持つ。
- メディアの報道に流されず、複数の情報源から冷静に政策の本質を見極める。
- 政府や自治体の環境政策に関心を持ち、選挙や意見表明を通じて持続可能な社会の実現に貢献する。
トランプ政権の「脱・脱炭素」政策は、短期的に市場を揺るがしています。しかし、気候変動対策は国際的な合意のもと進められており、完全に逆戻りすることは考えにくいのではないかと思います。
これからは、国際的な脱炭素政策の変化に敏感になりつつ、個人としても持続可能な選択をすることが求められます。政策の変動をチャンスと捉え、新たな技術や市場の可能性にも目を向けながら、より良い未来のために行動していくことが大事なのかもしれません。